
吉凶の池と大井元の水
吉凶の池
ある寒い日のこと。お年寄りが若者を連れて、三輪神社裏手の丸山の坂を登っていたときのことであった。若者が坂道のそばにある扇形をした小さな池の中をふと見ると、池の水が回っているではないか。
「あれ、池の水が回っているぞ。」
びっくりした若者は急いで近くにいた人たちを呼び集めた。村人たちも池の中をのぞきこんで、
「こりゃおどろいた。いったいどういうことだ。」
と、大騒ぎになった。
すると、水の回っている向きを確かめていたお年寄りが、みんなをしずめるように話しはじめた。
「この池は、ときどき水が車の輪のように回るんじゃ。この水の回り具合で吉凶(良いこと悪いこと)が判るといわれておる。水が右回りするとその年は良いことが多く、逆に左回りすると悪いことが起こるという知らせだから気をつけろということじゃ。 それで、古くからこの池を吉凶の池と呼んでおる。」
「今は右回りしているぞ。」
「今年は村で良いことがあるぞ。きっと米がよくとれるに ちがいない。」
村人たちは手を取りあって喜んだという。
大井元の水
吉凶の池のすぐ近く、三輪神社の社務所から西へ少し行 ったところに、いつもきれいで冷たい水がこんこんと湧きで ている泉がある。ここは「大井元」と呼ばれていて、神さまにお供えする宮水をこの泉から汲んでいる。
どんなに日照続いても、大雨の時でも水の湧き出す量は変わること がなく、汲んでも汲んでも枯れることがない、水の豊かな泉である。村人たちは三輪神社の神様のお陰だと感謝し、 お酒を造る水にも使われていた。
この泉には屋根がかけてあり、中には石で造った祠と石燈籠が立っている。祠の中には「影降石」といって神様が降りてこられるという石があり、さらに祠の内側には「三輪大明神」の文字が刻まれている。そして、この村に災害が起こる時には、風が吹いていないのに泉の水面が波立ち、蛇が現れてこの石に巻きつくと言われている。
丸山の西麓にある「吉凶の池」の水は、地下の水脈を通り豊富に元清水の「大井元」につながっている。昔に比べると少しずつ水量が減ってきているけれど、今でもいい伝えの 通り水が湧きだし、地域の人々の暮らしに役立っている。

